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しょうしょうじゅうさんねん

蕭々十三年

山本 周五郎

「新国民」1942(昭和17)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,105 字 · 16 页

青空文庫

汲んで待つには及ばないぞ」

「おそれいりまする」半九郎は平伏して云った、「寒気がきびしゅうございますので独り合点に心付かぬことを仕りました、以後は必ず御意にそうよう致します」

「叱ったのではない、気にいたすな」

そう云って忠善は部屋へ戻った。

馬場へ出ると、半九郎はまた早くも厩から乗馬を曳きだして待っていた。馬をせめるときに、忠善はおりおり城外まで乗り出すことがある、その朝も馬場へ出て、未明の地上にいちめん白い霜がむすんでいるのを見ると、ふと矢矧川のあたりまで行きたくなって馬首を城外へ向けた。そういうときは必ず独りにきまっていた、誰にもわずらわされず、思う存分に馬をせめたいからである、ところが城門を出ると間もなく、半九郎が馬で追って来た。

「来なくともよい、早朝はいつも独りで乗るのだ、戻っておれ」

「……はっ」彼は手綱を絞った。

「来なくともよいぞ」

二度まで云ったが、半九郎はすこし遠のくだけでしまいまで供をしつづけた。

その翌朝も、半九郎は暁暗の廊下で洗面の用意をしていた、湯ではなかったが、井戸から汲みたての、湯気の立つような新しい水だった。……忠善はなにも云わずにそれを使った。