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あざみ
薊
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页
銕太郎は妻を追って縁側へ出た。佐久馬はとびあがり、走っていって兄を抱きとめた。
「どうしたんです、兄さん」と佐久馬は兄の肩を激しく叩いた、「しっかりして下さい、どうしたんです」
銕太郎は弟の顔を見た、佐久馬が兄の眼を強く見返すと、銕太郎は不決断に、庭のほうへ眼をやった。庭はすっかり暗くなり、降りだした粉雪が、早くも庭土を白く染めていた。
「なんでもない」と銕太郎は云った、「大丈夫だ、放してくれ」
「いいですか」
「もういい、大丈夫だ」
「びっくりしましたよ」と云って佐久馬は手を放した、「お茶でも持って来させましょうか」
銕太郎は首を振った。
「もう出仕するほうがいいですよ」佐久馬は本箱の前へ戻りながら云った、「あね上が亡くなってからずっと籠りっきりでしょう、四十九日を済ませたら出仕なさるんですね」
銕太郎は机の前に坐ったが、そこにある薊の花を見て、「あ」と云い、顔色を変えた。
「どうしました」と佐久馬が兄を見た。
銕太郎はそっと薊を指さした。
「それがどうしたんです」
「この、――」と銕太郎は吃った、「これが、どうしてここにあるんだ」
「私が採って来たんですよ」佐久馬が不審そうに云った、「天神山の崖下に咲いているのをみつけて、あね上のお好きな花だから折って来たんです、忘れたんですか」