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あざみ
薊
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页
銕太郎はあいまいに、「そうか」と頷いて云った、「こんな季節にも咲くのか」
「あの崖下は陽溜りで暖かいんでしょう、撫子も咲いていましたよ」
銕太郎は悩ましげな眼つきで、じっとその薊の花を見まもっていた。
「このままでは萎れてしまうな」と暫くして彼は云った、「納戸から花立を出して、水を入れて来てもらおうか」
「持って来ましょう」と佐久馬が云った。
弟が出てゆくと、銕太郎はまた、机に頬杖を突いて、向うを見た。黄昏の色の濃くなった庭に、風の絶えた空から、粉雪が白く、音もなく降っていた。彼は粉雪のかなたをぼんやりとみつめてい、やがて一人の若い侍が、灯をいれた行燈を持って、足音を忍ぶようにはいって来た。