轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
菊池寛『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』。同一底本的分册已合并为一书。收入:藤十郎の恋、ある恋の話、入れ札。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 页
従って、彼は、過去の経験から、人妻を盗むような必死な、空恐ろしい、それと同時に身を焼くように烈しい恋に近い場合を、色々と尋ねてみたが、彼のどの恋もどの恋も極めて正当な、物柔かな恋であって、冬の海のように恐ろしい恋や、夏の太陽のような烈しい恋の場合は、どう考えても頭に浮んでは来なかった。
六
傾城買の経緯なれば、どんなに微妙にでも、演じ得ると云う自信を持った藤十郎も、人妻との呪われた悪魔的な、道ならぬ然し懸命な必死の恋を、舞台の上にどう演活してよいかは、ほとほと思案の及ばぬところであった。これまでの歌舞伎狂言と云えば、傾城買のたわいもない戯れか、でなければ物真似の道化に尽きていた為に、こうした密夫の狂言などに、頼れるような前代の名優の仕残した型などは、微塵も残っていなかった。それかと云って、彼はこうした場合に、打ち明けて智慧を借るべき、相談相手を持っていなかった。彼の茂右衛門に、おさんを勤める切波千寿は、天性の美貌一つが、彼の舞台の凡てであった。ただ、藤十郎の指図のままに、傀儡のごとく動くのが、彼の演伎の凡てであったのだ。
藤十郎は、自分自身の肝脳を搾るより外には、工夫の仕方もなかったのである。