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ふじだなのかげから

藤棚の陰から

寺田 寅彦

「中央公論」1934(昭和9)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,285 字 · 17 页

青空文庫

負傷した金魚はまもなく死んでしまった。ちょうどその日金魚屋が来たので死んだのの代わりに同歳のを一尾買って入れた。夜はまた猫が来るといけないからというので網の代わりに古い風呂桶のふたをかぶせておいた。翌朝あけて見るときのう買ったのと、前からいた生き残りのうちの一尾とが死んでいた。

死因がわからない。しかしたぶんこうではないかと思われた。夏じゅうは昼間に暖まった甕の水が夜間の放熱で表面から冷え、冷えた水は重くなって沈むのでいわゆる対流が起こる。そのおかげで水が表面から底まで静かにかき回され、冷却されると同時に底のほうで発生した悪いガスなどの蓄積も妨げられる。それを、木のふたで密閉したから夜間の冷却が行なわれず、対流が生ぜず、従って有害なものが底のほうに蓄積して窒息死を起こしたのではないかというのである。これが冬期だといったいの水温がずっと低いために悪いガスなどの発生も微少だから害はないであろう。これは想像である。

それにしても同じ有害な環境におかれた三尾のうちで二つは死んで一つは生き残るから妙である。

水雷艇「友鶴」の覆没の悲惨事を思い出した。

あれにもやはり人間の科学知識の欠乏が原因の一つになっていたという話である。