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ふじだなのかげから

藤棚の陰から

寺田 寅彦

「中央公論」1934(昭和9)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,285 字 · 17 页

青空文庫

もう一つは浦戸港の入り口に近いある岩礁を決して破壊してはいけない、これを取ると港口が埋没すると教えたことである。しかるに明治年間ある知事の時代に、たぶん机の上の学問しか知らないいわゆる技師の建言によってであろう、この礁が汽船の出入りの邪魔になると言ってダイナマイトで破砕されてしまった。するとたちまちどこからとなく砂が港口に押し寄せて来て始末がつかなくなった。

故工学博士広井勇氏が大学紀要に出した論文の中にこのときの知事のことを“a governor less wise than Kenzan”としてあったように記憶する。実に巧妙な措辞であると思う。この知事のような為政者は今でも捜せばいくらでも見つかりそうな気がするのである。

少なくも、むやみに扁桃腺を抜きたがる医者は今でもいくらもいるであろう。

十八

近年の統計によると警視庁管内における自殺者の数が著しく増加し、大正十一年と昭和八年とでは管内人口の増加が約六割であるのに対して自殺既遂者の数は二十割、未遂者の数は四十割に増加しているとの事である。ある新聞の社説にこの事実をあげてその原因について考察し為政当局者の反省を促している。