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へび

蛇

森 鴎外

「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页

青空文庫

聞き取りにくい詞で、「跡の事は清吉に頼め」と云ったのが、御隠居さんにやっと分かったということである。

自分は取るものも取りあえず、この土地へ帰って来た。御隠居は五十を越しているのに、今の主人はやっと長野の中学校に這入ったばかりである。それからというものは、穂積家一切の事を引き受けて、とうとう一生独身で暮したのである。

好い子だと評判せられていた今の主人は、段々大きくなるに連れて、少し弱々しい青年になった。学校の成績は相変わらず好い。是非学士にすると云っていた、先代の遺志を紹いで、御隠居が世話をしていられた。先代の心安くした住職のいるある寺に泊って、中学に通っている主人の、暑中休暇や暮の休暇に帰って来るのを、御隠居は楽みにしているのであった。

その頃から今の主人はどうも体が悪い。少し無理な勉強をすると、眩暈がして卒倒する。講堂で卒倒して、同級のものに送られて寺へ帰ることなぞがあった。

それでも中学は相応に卒業したが、東京へ出て、高等学校の試験を受けることになってから、度々落第して、次第に神経質になった。無理な事をさせてはならないというので、傍から勧めて早稲田に入れることにした。