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ばんじん

蛮人

山本 周五郎

「アサヒグラフ」1936(昭和11)年8月12日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,726 字 · 13 页

青空文庫

貝殻を焼いて石灰をつくる工場が中堀から荒地へ出はずれたところにあった。

建物は百坪ばかりの高い二階建でもうすっかり古び、羽目板はみんなひどく乾割れているし、外側から二階へ通ずる段無しの足場も危なかしく朽ちていた。そして屋根から下どこもかしこも白い番瀝青で塗りつぶしたように灰まみれで、高いところにある小窓やそこここの隙間からは、絶えず濃霧のような灰煙が溢れ出で、それが建物を中心にたち舞っているところは、まるで凄じい吹雪のなかに取残された廃屋のように見える。

工場の前は荒地へ続く道を隔てて河になっている、堤から埋立がつき出ていて貝殻の山が類別に積まれてある、その端のほうに石炭の山があり、また荒薪や松の枯枝といった燃料が防風壁のように積重ねてある、これらがすべて灰まみれだ、そればかりではない建物のほとんど一丁四方ほどは、道も雑草もみんな死灰にまみれ、それが日光の下でひどく匂っている、稀塩酸を朽木に滲ませたように噎せっぽい酸い匂いだ。近くへ寄ってみるとごく微小な霧粒のようなものがちりちりと舞いながら落ちてくるのが見える。

工場の中では七人の労働者が働いている、彼らは裸である、わずかに恥部を三角巾で隠しているだけだ。