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たこのごときもの

蛸の如きもの

豊島 与志雄

「改造」1950(昭和25)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 页

青空文庫

もっとも、男は飲むことだけだ、と君は言ったが、これも一面の真理には違いない。

バー・ペンギンで木村が酔っ払った時は、おかしかった。あいつ、やたらにブランデーをあおったものだから、すっかり足腰がたたなくなり、それを自分で気付かずに、ソファーから立ち上って、スタンドの方へ、なにかマダムに愛嬌をふりまきに行ったものだから……。第一、あのマダムに敬意を表するということはない。バー・ペンギンとはよく名づけた。マダムの恰好が、脚はちんちくで、胴はのっぺりして、口は反っ歯で、ペンギンそっくりじゃないか。滑稽を一種の愛嬌とするなら、まあ、こちらからも愛嬌を呈するのもよかろう。木村は眼に笑みを含んで、数歩あるいていったが、もう腰がくだけ、スタンドにつかまりそこね、腰掛にもつかまりそこね、すとんと尻もちをついてしまった。ばかりならよいが、起き上ろうとして、手足をばたばたやった。床に手をつくことを忘れたのだ。ダブルの上衣、ポマードをぬった髪、ぴかぴか光らしてるダンス用の靴、それで尻もちをついて、手足を宙にばたばた泳がしてる様子が、まったく滑稽で、俺は笑いだしたし、他の酔客も笑った。