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くも

蜘蛛

甲賀 三郎

「文学時代」1930(昭和5)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,314 字 · 22 页

青空文庫

と光らせていた。そのうえに函の始末が悪かったためか、のがれでた蜘蛛たちは天井や部屋のすみに網をはっていた。壁のうえ、床のうえにも幾匹となく無気味なかたちをしてぞろぞろと走りまわっていた。

私はしかしみずからをはげまして、充分に注意しながら函をのぞきまわった。熱帯産のおそるべき毒蜘蛛はさいわいにも厳重に密閉された函のなかにちゃんと収められていた。辻川博士がどんなふうにしてそれにかみつかれたのか、博士が発見されたときにはすでに瀕死の状態で、ただとりとめのない呪いの言葉をとぎれとぎれにうなっていただけで、よくわからないのだが、とにかく、当の毒蜘蛛は逸出していなかったので私はほっと安心した。それから私は部屋のすみずみから書棚や机の裏側、床のつぎめなどを厳密にしらべはじめた。もしや私の知らないでいた有毒の蜘蛛が逃げだしてひそんでいないかとおもったからである。

私はべつにそんな有毒な蜘蛛はみとめなかったけれども、博士常用の机の裏側をあらためたときに、机の脚の一部に電流のスイッチが一つとりつけてあるのを発見した。電燈用や、暖炉用にしてはへんなところにとりつけてあるので、私はふしぎに思って、二三度パチパチとひねってみた。