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みかん

蜜柑

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页

青空文庫

「…………」

頼宣の唇にそっと微笑がうかんだ。そしてしずかに頷きながら、

「ようわかった」と機嫌のなおった声で云った。

「風には恐れぬが、家臣を損ずるようなことがあってはもったいない、船出はとりやめるぞ」

「……はっ」

「佐屋へまわって川船でくだる。長門にそう申しておけ」

源四郎はもういちど藪七郎左衛門をねめつけてから御前をさがった。

行列はその翌日、宮を発し、佐屋街道をいって尾張の津島から木曽川を下り、無事に紀州和歌山へと帰国した。

この旅中に源四郎は考えた。

彼は新規お召抱えの人々について、かなりまえからすくなからず不満を持っていた。頼宣がさむらいを愛するあまり、名ある者は禄を惜しまず召し抱える、それは武将としてあたりまえなことだ。けれども抱えられる人々は譜代の者にとっては新参である、新参には新参の礼儀がなくてはならない、それにもかかわらず多くの人々は、高禄をもって召抱えられたのに得々として、とかく譜代の者を凌ごうとするようすがみえるのだ。

――なんだ新参者のくせに。そういう気持を感じるのは源四郎ひとりではなかった。血気の者のなかには、おなじ不満をもつ者がすくなからずある、どうにかしなくてはならぬと思っていた。