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みかん

蜜柑

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页

青空文庫

三

荒天渡海のお沙汰が、藪七郎左衛門の進言から出たということを聞いた源四郎は、どうにかする機会はこれだと考えた。彼が御前へ出たとき、七郎左衛門はいかにも豪放な態度で渡海をうながすような口ぶりをみせていた。そのときの七郎左衛門の不屈な眉つきが、和歌山へ着くまでずっと源四郎の眼から消えなかったのである。

帰国してまだ間もない一日、彼は藪三左衛門の屋敷をたずねて七郎左衛門に面会をもとめた。うるさいほど蜩ぜみの鳴く広庭をまえにして、客間に相対した主客ははじめからたがいの反感を露骨に示しあった。

三

「話というのは、御帰国途中、宮で御渡海のお沙汰が出たことです」

源四郎はずばずばと云った。

「あのお沙汰は、貴殿からお上へご進言申したためだと聞いているが、事実さような進言をなされたかどうかうかがいたい」

「さよう……」七郎左衛門は冷やかに、

「それがしの言葉によって御渡海のお沙汰が出たかどうかは知らぬが、戦場なればあれしきの風に恐れてはおられぬと申したのは事実だ」

「もしも、それがもしもお上でなく、貴殿のご尊父であっても、おなじことを貴殿は申されたであろうか」

「異なことを云う、父ならばどうしたのだ」