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みかん

蜜柑

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页

青空文庫

頼宣の眼はかつて見たことのない忿をたたえていた。そして、源四郎が拝揖して座につくよりはやく、つき刺すような声で、

「源四郎、そのほう藪へまいってなにを申した」と叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)した。

「七郎左になにを申した、余のまえでもういちど云ってみい、なにを申したのだ」

「……殿」

「余が新規召抱えの者に高禄をやる、それがそのほうには不服か、余に依怙の沙汰でもあると申すか」

「恐れながら、恐れながら殿」源四郎はびっくりしてさえぎった。

「左様の仰せはおなさけのうございます、わたくしはただ、ただ……」

「申せ、申せ源四郎。そのほうがなにを考えておるか、そのくらいのことがわからぬ余ではないぞ。紀伊のために身命を惜しまぬ覚悟はよい、余のため、五十五万石のためという一念はよいが、眼さきのことにはしって、おのれひとりを正しと思うのはみぐるしいぞ」

「…………」

「余が高禄を惜しまず、名あるもののふを召抱えるのを、そのほう今日までなんと思っていた、ただ余のさむらい好みとでも思っていたのか。そうだとすると、……余はそのほうを見損なっていたぞ源四郎」

「……申しあげます」