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ろうにんぎょう
蝋人形
小川 未明
「新小説」1908(明治41)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,886 字 · 10 页
時としては、いくら黙言の柔順な清吉でも堪え切れんで顔を真赤にして拳を堅めて相手を睨むことがある。そうすると他の生徒等は後からも前からも一時に囃し立て鼻緒の切れた草履を投げ付けたり、互に前の者を押しやって清吉に突き当たり、白墨の片を投げ付けたり、とうとう清吉が声を上げて泣くまで調戯のが常である。若し其様時に受持教師がその傍を通り合せても、またかといわぬばかりに見ぬ風をしてさっさと行き過ぎてしまう。生徒は益々図にのって、彼をば虐めるのである。時に余りに見かねて年老った小使が中へ入って他の生徒を追い払って、清吉を回護てやることがある。清吉は其様具合で小学校にいては一人も友達というものがなかった。或は時として、運動場などで斯様風で泣かされて、悄然と教員室の前に来て立って、受持教師の出るのを待って、その一部始終を告げて、訴えることがある。その時に螺旋巻の時計の紐を胸に吊した、色の赭ちゃけた洋服を着た薄い口髯のある教師は何というたろう。
「お前が何か悪いことをしたのでないか、せないのなら後でしらべてやる。」といい残してさっさと出て行ってしまう。その後を慕うて清吉はとぼとぼとついて行くと、教師は便所へ入ってしまう。