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ちょうのえ

蝶の絵

久生 十蘭

「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页

青空文庫

二

やはり昂奮しているのだとみえ、無口な山川が、いつになく、つくづくと念頭の考えを洩し、疲れたといって、一人で先に帰った。

二

東京裁判が最終論告の段階に入り、横浜裁判と平行して、俘虜部門の弁論がはじまったころ、厚木の早朝ゴルフの帰り、思いついて山川のところへ寄ると、妹の慧子が出てきて、

「兄は、いま、おつとめなんです」

と笑いながらいった。そういえば日曜日で、山川で家庭礼拝のある日だった。

広縁で煙草を喫いながら待っていると、柴垣のむこうで、姉の常子が植木屋と話している声がきこえる。

「池まわりも、荒したままじゃ置けませんから、いずれ、お入れになるのならと思いまして……低いつくりものですと、てっせん、うずら梅、あせび、どうだん、山茶花といったようなもの。汀石の控えに、うってつけな、赤斑の霧島なんかもございますが」

「花はどうかしら……みな、抜かせてしまったくらいだから、いってはみますが、無駄でしょう」

死んだ山川の父は、「百花村」の秋公のような花好きで、池の汀に紫※(「くさかんむり/宛」、第3水準1-90-92)を植え、中門の楯に紫※(「くさかんむり/宛」