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ちょうのえ

蝶の絵

久生 十蘭

「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页

青空文庫

かわらぬ愛さえあれば、思い出などは踏みこえて行けると、単純に思いこんでいましたが、まちがいだったようです……熱がさめて、冷静になったとき、結婚したことを後悔したり、責めあったりするのだったら……消すに消せない思い出を間に挾んで、いつも、それを通して、お互いの顔を見あわさなければならないようになるなら……」

「山川がそういってきたんだね」

「それに、あたしはスマトラの戦犯裁判で、証人に立って、日本人の罪を証明したことがあります。それを忘れていました……どんなことがあっても、山川さんと結婚できない関係になっているんです。悲しいけど、あきらめるほかはありません」

「リーナ君、君が告発したのは津村だったんだね、『蝶』といわれていたやつ……」

リーナは眼を伏せたきり、それには答えなかった。

言おうとすることはよくわかる。言葉のもつ真実味にうたれ、敬意と同情を感じながら聞いていたが、リーナという娘は恋に眼が眩み、山川のべつな姿をつくりあげているらしい。われわれの知っている山川とは似もつかぬもので、張合いぬけがして、力が入らなくなった。

「とりとめのないことになったね」