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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

火夫の代表は、普段一度も云ったこともない言葉をしゃべり出して、自分でどまついてしまった。つまる度に赤くなり、ナッパ服の裾を引張ってみたり、すり切れた穴のところに手を入れてみたり、ソワソワした。皆はそれに気付くとデッキを足踏みして笑った。

「……俺アもうやめる。然し、諸君、彼奴等はブンなぐってしまうべよ!」と云って、壇を下りた。

ワザと、皆が大げさに拍手した。

「其処だけでよかったんだ」後で誰かひやかした。それで皆は一度にワッと笑い出してしまった。

火夫は、夏の真最中に、ボイラーの柄の長いシャベルを使うときよりも、汗をびっしょりかいて、足元さえ頼りなくなっていた。降りて来たとき、「俺何しゃべったかな?」と仲間にきいた。

学生が肩をたたいて、「いい、いい」と云って笑った。

「お前えだ、悪いのア。別にいたのによ、俺でなくたって……」

「皆さん、私達は今日の来るのを待っていたんです」――壇には一五、六歳の雑夫が立っていた。

「皆さんも知っている、私達の友達がこの工船の中で、どんなに苦しめられ、半殺しにされたか。夜になって薄ッぺらい布団に包まってから、家のことを思い出して、よく私達は泣きました。