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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

通路には、林檎やバナナの皮、グジョグジョした高丈、鞋、飯粒のこびりついている薄皮などが捨ててあった。流れの止った泥溝だった。監督はじろりそれを見ながら、無遠慮に唾をはいた。――どれも飲んで来たらしく、顔を赤くしていた。

「一寸云って置く」監督が土方の棒頭のように頑丈な身体で、片足を寝床の仕切りの上にかけて、楊子で口をモグモグさせながら、時々歯にはさまったものを、トットッと飛ばして、口を切った。

「分ってるものもあるだろうが、云うまでもなくこの蟹工船の事業は、ただ単にだ、一会社の儲仕事と見るべきではなくて、国際上の一大問題なのだ。我々が――我々日本帝国人民が偉いか、露助が偉いか。一騎打ちの戦いなんだ。それに若し、若しもだ。そんな事は絶対にあるべき筈がないが、負けるようなことがあったら、睾丸をブラ下げた日本男児は腹でも切って、カムサツカの海の中にブチ落ちることだ。身体が小さくたって、野呂間な露助に負けてたまるもんじゃない。

「それに、我カムサツカの漁業は蟹罐詰ばかりでなく、鮭、鱒と共に、国際的に云ってだ、他の国とは比らべもならない優秀な地位を保っており、又日本国内の行き詰った人口問題、食糧問題に対して、重大な使命を持っているのだ。