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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

の中へ順々に入り込んできた。手や足は大根のように冷えて、感覚なく身体についていた。皆は蚕のように、各※(二の字点、1-2-22)の棚の中に入ってしまうと、誰も一口も口をきくものがいなかった。ゴロリ横になって、鉄の支柱につかまった。船は、背に食いついている虻を追払う馬のように、身体をヤケに振っている。漁夫はあてのない視線を白ペンキが黄色に煤けた天井にやったり、殆んど海の中に入りッ切りになっている青黒い円窓にやったり……中には、呆けたようにキョトンと口を半開きにしているものもいた。誰も、何も考えていなかった。漠然とした不安な自覚が、皆を不機嫌にだまらせていた。

顔を仰向けにして、グイとウイスキーをラッパ飲みにしている。赤黄く濁った、にぶい電燈のなかでチラッと瓶の角が光ってみえた。――ガラ、ガラッと、ウイスキーの空瓶が二、三カ所に稲妻形に打ち当って、棚から通路に力一杯に投げ出された。皆は頭だけをその方に向けて、眼で瓶を追った。――隅の方で誰か怒った声を出した。時化にとぎれて、それが片言のように聞えた。

「日本を離れるんだど」円窓を肱で拭っている。

「糞壺」