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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

末広な、青ッぽいカンテラの光が揺れる度に、ゴミゴミした棚の一部や、脛の長い防水ゴム靴や、支柱に懸けてあるドザや袢天、それに行李などの一部分がチラ、チラッと光って、消えた。――足元に光が顫えながら一瞬間溜まる、と今度は賄のドアーに幻燈のような円るい光の輪を写した。――次の朝になって、雑夫の一人が行衛不明になったことが知れた。

皆は前の日の「無茶な仕事」を思い、「あれじゃ、波に浚われたんだ」と思った。イヤな気持がした。然し漁夫達が未明から追い廻わされたので、そのことではお互に話すことが出来なかった。

「こったら冷ッこい水さ、誰が好き好んで飛び込むって! 隠れてやがるんだ。見付けたら、畜生、タタきのめしてやるから!」

監督は棍棒を玩具のようにグルグル廻しながら、船の中を探して歩いた。

時化は頂上を過ぎてはいた。それでも、船が行先きにもり上った波に突き入ると、「おもて」の甲板を、波は自分の敷居でもまたぐように何んの雑作もなく、乗り越してきた。一昼夜の闘争で、満身に痛手を負ったように、船は何処か跛な音をたてて進んでいた。薄い煙のような雲が、手が届きそうな上を、マストに打ち当りながら、急角度を切って吹きとんで行った。