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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

それが無骨な漁夫の手から、手へ渡されて行った。彼等は豆粒でも拾うように、ボツリ、ボツリ、然しむさぼるように、それを読んでしまうと、嫌なものを見てしまったという風に頭をふって、次ぎに渡してやった。――子供からの手紙だった。

ぐずりと鼻をならして、手紙から顔を上げると、カスカスした低い声で、「浅川のためだ。死んだと分ったら、弔い合戦をやるんだ」と云った。その男は図体の大きい、北海道の奥地で色々なことをやってきたという男だった。もっと低い声で、

「奴、一人位タタキ落せるべよ」若い、肩のもり上った漁夫が云った。

「あ、この手紙いけねえ。すっかり思い出してしまった」

「なア」最初のが云った。「うっかりしていれば、俺達だって奴にやられたんだで。他人ごとでねえんだど」

隅の方で、立膝をして、拇指の爪をかみながら、上眼をつかって、皆の云うのを聞いていた男が、その時、うん、うんと頭をふって、うなずいた。「万事、俺にまかせれ、その時ア! あの野郎一人グイとやってしまうから」

皆はだまった。――だまったまま、然し、ホッとした。

博光丸が元の位置に帰ってから、三日して突然(!)その行衛不明になった川崎船が、しかも元気よく帰ってきた。