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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

それを一日の働きが十時間だから十三時間だからって、それでピッタリやめられたら、飛んでもないことになるんだ。――仕事の性質が異うんだ。いいか、その代り蟹が採れない時は、お前達を勿体ない程ブラブラさせておくんだ」監督は「糞壺」へ降りてきて、そんなことを云った。「露助はな、魚が何んぼ眼の前で群化てきても、時間が来れば一分も違わずに、仕事をブン投げてしまうんだ。んだから――んな心掛けだから露西亜の国がああなったんだ。日本男児の断じて真似てならないことだ!」

何に云ってるんだ、ペテン野郎! そう思って聞いていないものもあった。然し大部分は監督にそう云われると日本人はやはり偉いんだ、という気にされた。そして自分達の毎日の残虐な苦しさが、何か「英雄的」なものに見え、それがせめても皆を慰めさせた。

甲板で仕事をしていると、よく水平線を横切って、駆逐艦が南下して行った。後尾に日本の旗がはためくのが見えた。漁夫等は興奮から、眼に涙を一杯ためて、帽子をつかんで振った。――あれだけだ。俺達の味方は、と思った。

「畜生、あいつを見ると、涙が出やがる」

だんだん小さくなって、煙にまつわって見えなくなるまで見送った。