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かにこうせん
蟹工船
小林 多喜二
「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页
に帰ってきた。顔を見合うと、思わず笑い出した。それが何故か分らずに、おかしくて、おかしくて仕様がなかった。
それが船員の方にも移って行った。船員を漁夫とにらみ合わせて、仕事をさせ、いい加減に馬鹿をみせられていたことが分ると、彼等も時々「サボリ」出した。
「昨日ウンと働き過ぎたから、今日はサボだど」
仕事の出しなに、誰かそう云うと、皆そうなった。然し「サボ」と云っても、ただ身体を楽に使うということでしかなかったが。
誰だって身体がおかしくなっていた。イザとなったら「仕方がない」やるさ。「殺されること」はどっち道同じことだ。そんな気が皆にあった。――ただ、もうたまらなかった。
× × ×
「中積船だ! 中積船だ!」上甲板で叫んでいるのが、下まで聞えてきた。皆は思い思い「糞壺」の棚からボロ着のまま跳ね下りた。
中積船は漁夫や船員を「女」よりも夢中にした。この船だけは塩ッ臭くない、――函館の匂いがしていた。何カ月も、何百日も踏みしめたことのない、あの動かない「土」の匂いがしていた。それに、中積船には日附の違った何通りもの手紙、シャツ、下着、雑誌などが送りとどけられていた。