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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

給仕は仕事の関係で、漁夫や船員などが、とても窺い知ることの出来ない船長や監督、工場代表などのムキ出しの生活をよく知っていた。と同時に、漁夫達の惨めな生活(監督は酔うと、漁夫達を「豚奴々々」と云っていた)も、ハッキリ対比されて知っている。公平に云って、上の人間はゴウマンで、恐ろしいことを儲けのために「平気」で謀んだ。漁夫や船員はそれにウマウマ落ち込んで行った。――それは見ていられなかった。

何も知らないうちはいい、給仕は何時もそう考えていた。彼は、当然どういうことが起るか――起らないではいないか、それが自分で分るように思っていた。

二時頃だった。船長や監督等は、下手に畳んでおいたために出来たらしい、色々な折目のついた服を着て、罐詰を船員二人に持たして、発動機船で駆逐艦に出掛けて行った。甲板で蟹外しをしていた漁夫や雑夫が、手を休めずに「嫁行列」でも見るように、それを見ていた。

「何やるんだか、分ったもんでねえな」

「俺達の作った罐詰ば、まるで糞紙よりも粗末にしやがる!」

「然しな……」中年を過ぎかけている、左手の指が三本よりない漁夫だった。「こんな処まで来て、ワザワザ俺達ば守っててけるんだもの、ええさ――な」