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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

女ながらもずば抜けた知恵者で、一面権謀術数に富み、一面仁慈寛大であった。加藤清正や福島正則や、片桐且元というような人さえ、幸蔵主には恩顧を蒙り、一目も二目も置いていた。秀吉さえも智謀を愛して、裏面の政治に関与させ、懐中刀として活用した。もう老年ではあったけれど、壮者をしのぐ、意気もあった。

また秀次が孫七郎と宣って、三好法印浄閑なるものの、実子として家にいた頃から、幸蔵主は秀次を知っていた。三好康長が秀次を養い、さらに秀吉が養子として、秀次を殊遇しはじめてから、幸蔵主は一層秀次に眼をかけ、よき注意を与えていた。で、幸蔵主は秀次にとっては、母とも乳母ともあたる人であった。

ところで秀次は累進して、そうして秀吉の後を受けて、関白職に経上って、聚楽の第の主人となって、権を揮うようになって以来、ようやく秀吉と不和になった。

秀吉の謀将の石田三成や、増田長盛というような人と、気が合わなかったのが原因の一つで、秀吉の愛妾の淀君なるものが、実子秀頼を産んだところから、秀頼に家督をとらせたいと、淀君も思えば秀吉も思った。自然秀次が邪魔になる――というのが原因の第二でもあった。