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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

「お那々、謡え! 幸若、舞え! 伴作々々鼓を調べろ!」

またも秀次は喚き出した。

「……何を恐れる! 天下人だぞ! 何を遠慮する、関白だ! 一天四界俺の物だ! 何を怯える、石田、増田に! 巷の童どもが悪口を云わば、用捨はいらない、切ってすてろ! 妻妾の数三十余人! それがどうした、少ないくらいだ! まだまだ美人を集めて見せる! 俺を殺生関白だという! 殺生ならぬ人間がどこにある! 政治に暗く人心離反し衆人俺を笑うという! 伏見の爺が悪いからだ! 爺が政治を執っているからだ。で俺は飾り物だ! 虚器を擁しているばかりだ! 不平もあろう、淫蕩にもなろう、残忍にもなろう、酷薄にもなろう! しかも関白をやめさせようとする。淀君の子を立てようとする。で、俺を迫害する! 僻むのは当然だ当然だ! ……騒げ、はしゃげ、謡え、舞え! 京都の柔弱兒を驚かせてやれ! 注げ! 酒だ! イスパニアの酒だ! ……安南、交趾から献上した、紅玉色をした酒を注げ! バタニア胡椒を酒へ入れろ! さぞ舌ざわりがよいだろう。酔が烈しく廻るだろう。……ソレソレこぼれた酒がこぼれた! スラスの懸布で拭くがいい。