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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
しかし梶太郎は、反対であった。自分の恋を抑え付けて、萩野を故郷へ送り届けて、秋安の手へ渡そうとした。ちょうどその頃香具師の群は、丹波の亀山に居たところから、そこを引き払って一年ぶりに、この京の地へ来たのである。
この花園の森の近くに、秋安の邸はあるのだという。そうして日が暮れて夜が来た時、萩野は香具師の群から別れて、秋安の邸へ行くのだという。――では二人での話し合いは、今が最後と見做さなければならない。
どんなに梶太郎の心持が、暗くて寂しくて悲しいか、云い現わすことさえ出来なかった。
しかし萩野の心持も、同じように寂しく悲しかった。一年前の月の夜に、この森で首をくくろうとして、野宿をしていた梶右衛門のために、あぶないところを助けられて以来、香具師の群の中へ投じて、諸々方々を流浪したが、その間にどれほど梶太郎のために、愛されいたわられ大事がられたことか。云い尽くせないものがあった。その人と別れなければならないのである。同じように寂しく悲しかった。
二人はいつ迄も動かない。
ところで萩野の心の中には、さらに別の不安があった。
「秋安様には薄情な妾を、お許しなすって下さるかしら?――そうしていまだにこの妾を、昔どおりに愛して下さるかしら?」