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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

それが生物であったならば、彼は紙帳を抱き締めたであろう。彼はやにわに紙帳の裾をかかげた。

「あッ」

彼は驚きで胸を反らせた。

新鮮な果実

紙帳の中に、彼の眼前に、彼以外の紙帳の主がいるではないか。そう、紙帳を箱とすれば、箱へ納まった京人形のように、一人の美しい娘が、謹ましくはあったが、充分寛いだ姿で、安らかに、長々と寝て、眠っているではないか。

(無断で俺の巣へ入り込んだ女め!)

憤怒が勃然と左門の胸へ燃え上がった。

(だが、女だ、綺麗な娘だ!)

左門の、少し黒ずんで見えていた唇へ、赤味が注し、眼へ光が射した。

左門は紙帳の中へはいった。彼は娘の顔をつくづくと見た。

(見覚えがある。飯塚薪左衛門の娘、栞だ!)

事の意外に左門はまたも驚いた。

過ぐる夜、飯塚家へ泊まった時、挨拶に出た栞という娘が、この紙帳の中に眠っていようとは!

(不思議だなア)

左門は両眉の間へ皺を畳んだ。

(しかし、栞であろうと誰であろうと……)

左門は、やがて地に腹這い、蛇が鎌首を持ち上げるように、首を上げ、頤の下へ両手を支い、栞の姿をながめていた。栞は、そんなこととも知らず、片腕を枕にして、眠りつづけていた。