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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
栞は、顔を上向け、また、何か想いにふけっているようであった。華やかな半襟の合わさり目から、白い滑かな咽喉が覗き、その上に、ふくよかな円い顔が載っていて、咽喉の形が、象牙の撥のように見えているのも、初々しかった。
栞は笑った。頼母のことを思っての、「想い出し笑い」であった。
「栞殿」と、左門は、相手の心を探るように云った。
「そなた、誰かと恋し合っておられますな」
「ま、……どうして……」
しかし栞の耳朶は紅を注した。
「様子でわかりまする」
「…………」
「あまりに浮き浮きとしておられる。あまりに幸福そうじゃ。……若い娘ごが、そのように成られること、恋以外にはござらぬ」
「…………」
「栞殿のような、美しい、賢い、無邪気な娘ごに恋される男、何者やら、果報者でござるよ」
「…………」
「相手の殿ごも、栞殿を愛しておられますかな?」
讐敵紙帳の内外
「それはもう……」と、栞は思わず云って、また顔を染めた。
「その殿ご、心変りせねばよいが」
「なんの……決して……そのようなこと!」
「競争者でも出来て……」
「競争者でも……」
と、栞の顔へ、はじめて不安の影が射した。
「さよう、競争者でも出来ましたら、男の心など、変るもので」