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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
二本の棒を櫂にして、地上を、海のように漕いで、躄り車を、進ませてくるのであった。長方形の箱の左右に附いている、四つの車は、鈍く、月光の波を分け、キリキリという音を立てて、廻っていた。と、車は急に止まり、老人の眼が、頼母へ据えられた。
「おお来たか!」
咽喉で押し殺したような声であった。極度の怒りと、恐怖とで、嗄れ顫えている声でもあった。そう叫んだ老人は、棒を手から放すと、片手を肩の上へ上げ、肩の上へ、背後からはみ出していた刀の柄へかけた。刀を背負っていたのである。それが引き抜かれた時、月光が、一時に刀身へ吸い寄せられたかのように、どぎつく光った。刀は青眼に構えられた。
「来たか、来栖勘兵衛! 来るだろうと思っていた! が、この有賀又兵衛、躄者にこそなったれ、やみやみとまだ汝には討たれぬぞ! それに俺の周囲には、いつも警護の者が附いている。今夜もこの屋敷には、六人の腕利きが宿直している筈だ。勘兵衛、これ、汝に逢ったら、云おう云おうと思っていたのだが、野中の道了での斬り合い、俺は今に怨みに思っておるぞ! 事実を誣い、俺に濡れ衣を着せたあげく、俺の股へ斬り付け、躄者になる原因を作ったな。