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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

「案外もろいものだねえ」

草で匕首の血糊を拭った時、

「お浦殿、やりましたな」

という声が聞こえて来た。さすがにお浦もギョッとして、声の来た方を見た。竹藪を背にして、編笠をかむった武士が立っていた。

「どなた?」

「旅の者じゃ」

「見ていたね」

「さよう」

「突き出す気かえ」

「役人ではない」

「話せそうね」

と、お浦は、構えていた匕首を下ろし、

「見遁がしてくれるのね」

「殺して至当の悪漢じゃ」

「ご存知?」

「賭場で見ていた」

「まあ」

お浦の恋情

「昼の間、五郎蔵殿の賭場へ参った者じゃ」

「あれ、それじゃア、まんざら見ず知らずの仲じゃアないのね」

「それに、同宿の誼みもある」

「同宿?」

「拙者は、府中の武蔵屋に泊まっておる」

編笠の武士、すなわち、伊東頼母は、そう、今日、府中へ来ると、五郎蔵一家が、武蔵屋へ宿を取っていると聞き、近寄る便宜にもと、同じ旅籠へ投じたのであった。しかるに、五郎蔵はじめその一家が、もう賭場へ出張ったと聞き、自分も賭場へ出かけて行ったのであった。

「まあ。武蔵屋に。それはそれは。妾も、武蔵屋の婢女でござんす」

「賭場で、典膳という奴、五郎蔵殿へ因縁つけたのを見ていた。