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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
女の力で刺したのと、衣裳の上からだったのとで、傷は浅かった。しかし、川へ落ちた時、後脳を打ち、気絶した。でも、気絶したのは、典膳にとっては幸運だった。水を飲まなかった。その典膳は、ここまで流されて来、ここの岩組の間に挾まり、長い間浮いているうちに蘇生した。蘇生はしたが、衰弱しきっている彼は、川から這い上がることさえ出来なかった。助けを呼ぶにも、声さえ出なかった。彼はただ、岩に取り縋っているだけで精一杯であった。
彼の心は、五郎蔵とお浦とに対する、怒りと怨みとで一杯であった。
(彼奴ら二人に復讐するためばかりにも、生き抜いてやらなけりゃア)
こう思っているのであった。
(昔の同志、同じ浪人組の仲間を、頭分たる彼奴が、女を使って殺そうとしたとは! 卑怯な奴、義理も人情も知らない奴! ……そっちがその気なら、こっちもこっち、彼奴の素姓を発き、その筋へ訴え出てやろう。即座に縛り首だ! 五郎蔵め、思い知るがいい! ……お浦もお浦だ、女の分際で、色仕掛けで俺を騙り、殺そうとは! どうともして引っ捕らえ、嬲り殺しにしてやらなけりゃア!)
川から上がりたい、水から出たいと、彼は縋っている手に力をこめ、岩を這い上がろうとした。