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こういのかち
行為の価値
宮本 百合子
「青年ノ旗」1946(昭和21)年8月30日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,375 字 · 5 页
最後の作「明暗」は、ただ現象ばかり追っかけるリアリズムでは現実を芸術として再現することさえ不可能であるということを示している。
漱石は、今日の歴史から顧みれば、多くの限界の見える作家であるが、知識人の独立性、自主性を主張することにおいては、なかなか強情であった。官僚にこびたりすることは、文学者のするべきことでないという態度をもっていた。東京帝大教授として、文部省の愚劣さを知りぬいていたから、そういうところからくれる博士号などは欲しくないと云って、ことわった。
同じ時、三宅雪嶺という哲学者が博士号をもらってうけた。ことわるほどのものでもなかろう、と笑って受けて、腹が大きいとかほめたものもあった。この雪嶺は、国粋主義者で、中野正剛を婿にした。これもことわるほどの者でもなかろう、というわけだったのかもしれない。誰かから、立派な邸宅をおくられた。ことわるほどのものでもなかったと見えて、それもうけとった。
漱石の妻君の弟に、建築家があった。その人は、建築家仲間がその姓名のゴロを合わせて、「アドヴァンテージ」(利益)というあだ名で呼ぶような人柄であった。漱石は、その人をすかなかった。