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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

涙がにじむほど笑い痴れた。しかし、

「こんな顔は珍らしいですなア」

と云って、落語家が目玉をクルクルやると、薄暗がりというものは、演技と現実が分離して見える。おかしさに変りはないが、この顔で苦労しました、という因果物的なイタマシサが、見物人の笑いのあとに残るのである。明るい電燈の下とは違う。

落語家が去ると、いつのまに来ていたのか、せつ子が長平に寄りそうように坐っていて、

「御多忙の先生はアプレゲールの寄席など御立寄りの機会もあるまいと思いまして、よんでみましたが、ガサツで、おきき苦しかったでしょう」

「いいえ。ごらんの通り、抱腹絶倒、戦後これほど笑ったことはありません」

「そうですか。では、ほかに二三用意がございますけど、やらせましょうかしら」

「どうぞ。見せて下さい」

「それじゃア、ちイさん」

せつ子に指名されて立ち上ったのは、洋装のうちの一人であった。

女は十歩ほど歩いて立ちどまり、正面を向くと、体操の予備運動か深呼吸のようなことをやっている。ハハア。これがポーズなのか、と、長平は気がついて、手品だな、と思った。しかし、ちがう。降霊術らしい。

苦悶しつつ身もだえるようにしながら、静かに一とまわり、二まわり。