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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

青木が言葉に窮していると、記代子は彼をさえぎるように立ち止って、

「私、子供は、きらいよ。子供なんか、つまんない。私、青木さん、好き。なぜ、察して下さらないの」

記代子は青木を見つめていたが、にわかに振りむいて、駈け去った。

六

記代子の気まぐれな感傷だろうと青木は思った。放二によせる胸の思いが、迷路をさまよって出口をふさがれているせいだ。

翌日、青木は深くこだわらず、出社した。記代子の様子にも、ふだんと変りは見えなかった。

午後になると、どの部屋も暑くなる。青木はトイレットへ顔を洗いに行く。いつもの彼の習慣だ。ゆっくり顔を洗って、ふと隣りをみると、水を流して、手を洗うフリをしながら、こッちを見ているのは記代子であった。

「ヤ」

顔をぬらしているから、物を云うことができない。タオルで顔をおさえる。ふき終ると、視線がかちあった。記代子の目は、食いこむようであった。

「今日、放二さんをさそったら、承知しない」

言いすてると、すぐふりむいて、立ち去った。昨夜のように駈け去りはしない。もっと確信にみちて、落ちついた態度であった。

偶然の出会ではない。