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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

「私の部屋へくる?」

青木はうなずいて、立上った。

ルミ子の部屋は、客を送りだしたばかりであった。青木はそのフトンの上へころがりこんで、

「誰かの体温がのこっているよ」

「もっとタクサンのこってるのよ。私のからだの中にね」

「君だけだな。ぼくを締めださないのは」

「千円札のあるうちはね」

「そうだっけ。そんなこと、怒鳴ったのを覚えてら。どこかで、ひッぱたかれたッけ」

「そう。八重ちゃんにね」

「ちがう。オデン屋のオヤジだろう」

「八重ちゃんにもよ。覚えていないの?」

「どこで?」

「兄さんのお部屋でさ。私にお客があったから、八重ちゃんに世話してあげたら、お前なら百円札でタクサンだッて喚いたからさ」

「ひッぱたかれたのは、それだけかい」

「あんたが、ひッぱたいたわ」

「誰を?」

「兄さんを」

青木は驚いてルミ子を見たが、とくに非難しているような顔付でもなかった。

「北川君をぶつなんて、妙だな。なぜ、ぶったろう?」

「酔っ払いだからさ」

「何か言ったかい? 女のことかなんか」

「あんた、なぜ、顔をあからめるの?」

「変な観察は、よせ」

「なぜさ。あんたぐらいの年になって、そんなことを言いながら顔をあからめるなんて、スッキリしてないね。