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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

彼女は青木を睨みつけた。

「ヤ。キッピイさん。待ってました。そうでしょうとも。分ってましたよ。あんたが笑顔じゃ迎えてくれないだろうということはね」

キッピイは立ったままだった。

「まア、かけなさいよ。はるばるお慕いして訪ねてきた男を、ジャケンに扱うもんじゃありませんよ。な。笑ってみせてくれよ。一秒でもいいや。ぼくを忘れたかな。大庭記代子嬢のカバン持ちさ。覚えているだろうね」

キッピイはイスにかけて頬杖をついて、ジロジロ青木を見つめた。

「どうして笑ってみせなきゃいけないのさ」

「難問だね」

青木はキッピイを観察したが、酔っているようでもなかった。

六

「言葉が足りなかったんだな。あなたが笑ったら、さぞ可愛いくて、ぼくはうれしい気持だろうと云いたかったのさ。あなたは観音様に似てるんだ。ちょッとリンカクが尖っているのは、職人が南蛮渡来なんだなア。腰の線が、又、そっくり南洋の観音様さ。な。南蛮渡来だって、日本なみに、笑ってくれたっていいだろうね」

彼はビールをのみほした。そして、益々、好機嫌であった。

「こんなことを言いにきたんじゃなかったんだがな。ま、いいや。