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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

記代子さんは大庭先生のお友だちで、青木とおッしゃる方と恋仲で、ニンシンしていらしたそうです。青木さんは大庭先生と同年配のお年寄のことですし、それまでに、ちょッとした行きがかりがありまして、先生も社長もこの恋愛には御賛成でなかったようです。で、煩悶されたようですが、会社での態度は明朗で、家出後に、社外の方からお話をうけたまわるまでは、我々一同不覚にも記代子さんの御心中を察することができなかったのです。自殺の怖れもありますが、世間に知れて記代子さんに傷のつかぬようにとの社長の配慮で、密々にぼくが捜査を一任されたのでした。方々をききまわるうちに、記代子さんが、こちらのお世話を受けているらしい、という噂をきいたのです。このことは、大庭先生にも社長にも、まだ申上げておりません。ぼくの一存で、真疑をたしかめに伺ったのですが、記代子さんについて御心当りがありましたら、教えていただきたいのです」

エンゼルはちょッと間をもたせたが、いとも簡単に答えた。

「ええ、よく知っております」

彼は無邪気な笑顔を見せた。

「しかし、このように御返事すべきか、どうか。まだその時期ではないんじゃないか、ということで、あなたを大そうお待たせしましたが、ぼくたちは相談していたのですよ」