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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

ところが、この厳然たる事実を、信じまいとするんですな。イヤ。有りうべからざる事である、と断定すら、するのです」

三

「嫌われれば、嫌われるほど、ぼくに惚れようとするのです。いえ、本当に惚れてくるのです。まるで、それが嫌われたことの、対策だと思いこんでいるように、ですなア」

本当にイマイマしいという表情がエンゼルの顔にあらわれた。しかし彼は自然の感情をむきだしにしているのではなかったのである。そういう顔をしてみせたのだ。

エンゼルは瞬きもせず悪いことのできる男であった。彼は悪事をたのしんでいた。大庭長平という、ちょッと世間に名の知れた男が、彼の仕事や力量に、どんな風に乗ぜられ、どんな風に負け、どんな顔や恰好をするだろうか、ということが、興味津々たるものがある。それを見つめることは、放火狂が火をみつめるように、色好みの男が女体をみつめるように、全身的な快楽を感じる。彼は話術の緩急を考え、猫が鼠をじらすように、たのしむのが好きであった。

何か長平の一言があるかと思っていたが、何もないので、彼は言葉をつゞけた。

「悪女の深情という言葉がありますが、なるほど、嫌われれば嫌われるほど、もたれてくる。