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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

そんな風にいわれると、迷ってしまうわ」

「ほう。何を迷うの?」

「だって、誰だって、自分の今のこと、今考えていること、今の生活、信じたいのですもの。今のこと、後悔する日がくるなんてこと、苦しくッて、とても考えられないわ」

なんとなく、まぶしそうに、笑う。思い切って切ないことを語っていても、それだけであった。

「いつか後悔する日が来そうな気がするのかい? ヤ。そんなことをきいて、わるかったかい」

「いいえ。ヤだなア。先生は。そんなにクヨクヨしそうに見える?」

「そこが、ぼくにも分らないよ」

「先生は、どうなのよ。後悔が、こわい?」

「後悔は、ムダだと思うよ」

「そうなのよ。ですけどね。私は、こう言えると思うわ。後悔する日なんて、もう、来ッこないの。私のところへは、ね。私は、そう信じることができるんです」

言葉が、すこし、はずんでいた。彼女としては、精いっぱい力強い言い方である。明るい笑みの中に、瞳があくまで澄みきっていた。

すさまじい確信であった。はずんだ言葉と、明るい微笑が長平の胸にくいこむ。この少女の心のめざましい安定というものが、正確に長平に移動して、彼の心まで安定させてくれるようだ。