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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

四

せつ子は応接室へ現れて、青木を認めると目を光らしたが、すぐふりむいて、受付の小女をよんで、

「この名刺の人は、どの方?」

応接室には幾組もの人々が立錐の余地もないほどつめこんで、モウモウたる紫煙をふいている。受付の少女が指したのは、意外にも、青木その人であった。

せつ子はすぐさま肚をきめて、驚いた風もなかった。

「出ましょう」

青木を外へ連れだした。

「大阪旅行が、とても、うまくいったのよ。後援して下さる方が現れてね。独立できることになったの。その代り、大阪へ移住することになるらしいのよ。関西の実業家は太ッ腹で、話がわかって、たのもしいわ。でもね。個人的な後援者がハッキリしてるんじゃなくって、ある事業団体が後楯というわけなのよ。青木さんにはお気の毒ですけど、相手が事業団体でしょう。行きがかりがどうあろうとも、他人の共同出資を認めてはくれないのね」

せつ子はデタラメをまくしたてた。無感情に。そして青木を刺し殺すように言葉をきった。

青木などは頭になかった。この名刺持参の者、と、わざと無記名の紹介状を青木に持たしてよこした大庭長平が憎いのである。