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うらぎり
裏切り
「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页
どうも気の毒で仕方がないが、私としちゃア、性慾てえのはシンから惚れていない女に限って用いることで、シンから愛しているものには用いることができない気持になりきっているんだから仕方がない。私は女房にたのむんだ。どうかそこを我慢して、茶のみ友達になってくれ、とね。本当の夫婦、本当の愛人同士てえのは茶のみ友達でつきると思っているんだよ、いまの私はね。けれども女房が怒るのは無理がねえや。私だってそんな気持になったのは五十すぎてからのことだもの。どうも、これは、いけねえな。私は女房のことばッかり喋っちゃッて、カンジンの小夜子サンへの気持のことが、出口がなくなってしまっちゃッたよ」
この告白に偽りはないのです。それはぼくが知っています。小さい店の隣り部屋に寝泊りしているんですから、オカミサンが泣いたり怒ったり呪ったりして一しょに寝てくれないのは愛がないせいだと時々ヒステリーを起すのを否応なく聞いていました。
ボクにはトオサンの気持はまだ理解ができません。ぼくが老人になっても理解できるかどうか、怪しいものです。なぜなら、ただ老人だからというわけではなく、現にトオサン自身が自分はむしろ若い時よりも旺盛な性慾があるぐらいだと云い云いしているからです。