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うらぎり
裏切り
「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页
彼の人生は芸術なんだ。それにくらべると、トオサンは神サマにちかい人だから、これは芸術というよりも芸術の素材としての美だね。絵で云えば、トオサンは美しい風景、美しい自然そのものだし、法本はそれを芸術に高めたタブローなんだ」
「そんなセンギはよけい物だよ。要するにキミは法本が小夜子サンをていよく誘拐して餌食にするのが芸術だというわけなんだね」
「そんなひどいことを云うのは侮辱だよ。法本が小夜子サンを誘拐して餌食にするなんて、ぼくの思いもよらないことじゃないか。キミは下劣だ。キミの思考は悪魔的だよ」
「それではキミはニセ貴族を仕立ててそこへ小夜子サンをかくまうことが小夜子サンをかくまう上等の手段と信じているのかい」
「むろん信じているよ」
「じゃア、そうしなさいとトオサンにすすめているんだね」
「すすめているッていうわけじゃないよ。ぼくだってニセ貴族を仕立てるについて法本に相談をうけたとき、ぼくはそういうことはできないと答えたことはキミにも話をしたじゃないか。貴族に心当りがあればとにかく、ニセ貴族を仕立ててまでッてのは、なんとなくバカバカしいような気がしたことは確かだからね」