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うらぎり
裏切り
「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页
二人の看病は心がこもっていましたが、特別というほどではありません。要するに、特別のものはなかったのです。
二人だけ一しょに旅行するというのが、そもそも茶のみ友達の境地に反しているのかも知れません。それはいわゆる世間なみの愛人たちのやるべき通俗なことのようです。しかしトオサンはそんな反省にふけるよりも、自分のカゼと闘うことや小夜子サンのカゼと闘うことに必死でした。無我夢中と云っても過言ではなかったほどです。彼は自分の病気中は、わるい奴だ、わるい奴だ、と自分を責めつづけていましたし、小夜子サンの病気中も、オレがわるい、オレがわるいと自分自身を叱りながら小夜子サンの足をもみ、額の汗をふいてやり、一時も休まずに身も心も使っていたのです。
小夜子サンは熱につかれてウトウトし、ふと目がさめると、いつもそこにトオサンがいるので、うれしく思いました。いつも真剣にジッとひかえているのです。それはほとんど有りうべからざるような珍しい現象として小夜子サンをたのしませ、ふと目がさめるのがたのしみになったほどですが、あるいは寝ている最中に口笛を吹くと夢の中にトオサンがでてくるのではないかなぞと考え、トオサンと忠犬を混同して考えるような失敬な空想にふけることが多かったのです。