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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

「どこに行ってらしたんです。武田さんまでが心配して待ってて下さるのに…。」

「え、武田が…。」

佐野はどこに行ったとも答えなかった。着物を着換えに立上った。

茶の間で、武田はぼんやり煙草を吹かしていた。

「君にまで心配をかけちゃって……。」

「なあに……。」

話のつぎほがなかった。

「ひどいのかしら。」

武田は敏子と同じようなことを云った。ひどく不機嫌そうだった。

佐野はまた子供の方へやって行った。

「今日……。」出たらめに友人の名を挙げて、「……に逢ってすっかり話しこんじゃったものだから……。」

「分りそうなものじゃありませんか。」

「そんな……分るものか。」

「武田さんだって、変な気持がしたから来てみたと云っていらしたわ。」

「変な気持……。」

「虫が知らせるってこともあるでしょう。」

「そんなじゃないよ。父親の僕に虫が知らせないんだから、大丈夫だ。」

子供の額はやはり熱かった。いつ覚めるとも分らない底深い眠りだった。

「氷で冷したら……。」

「余り冷しちゃいけませんって。」

強固を通りこして冷酷とも云えるほどの敏子の様子だった。一心に子供を見張っていた。佐野は指一本差出す余地がないような気がした。