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かっしょくのぐどう

褐色の求道

岡本 かの子

「宗教公論」1935(昭和10)年2、3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,065 字 · 14 页

青空文庫

私は恋人を持って居ます」

私はもう立上って居た。斯ういう人と、需めとに対しては容易に答えられるものではない。私はふとヘルマン・ヘッセのシッダールタという本を思い起した。私はこの本を倫敦にいたとき英訳で読んだのだが、その原著者は確かに独逸人である。この本の主人公シッダールタは、釈尊のコースを直線とすれば、これに対して弧形を描き、受難求道して幾分か大乗仏義を窺い得た形跡がある。

求道の手法としては吠陀や婆羅門神学に拠るところが多いが、最後の到着は究竟の一味を持っている。大乗理想から見れば、肝腎の菩提心の一着だけは欠いているが、殊にこの著書の特色は、人間の愛慾に求道を終始連絡させているところである。この点基督教仕立ての西洋人の著書であり、また、西洋人に解脱を与えることも多かろう。独逸人をして独逸人を治めしめよ。私は心に微笑を覚えて言った。

「やっぱりあなたと同じ独逸人の宗教小説家でヘルマン・ヘッセという人があります。この人の著書の『シッダールタ』を読んでご覧なすったら如何です。多少参考になるかも知れませんから」

青年は素直に注文聴取簿に私の言ったこと、著者と書名を書き記していた。