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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

帆村はひとり離れて下座にいた。手を伸ばすと、寒そうに光っている廊下が触れる。その廊下を出ると幅の狭い段梯子が、二階へつづいていた。

「ボワーン」

と小さい銅鑼をうったような音響が、その段梯子の上から流れてきた。

「貴方の番ですよ」

と、頤髯のある男がお喋りを中止して、帆村の方に合図をした。

帆村は恭々しく頭を下げると、しびれのする脚を伸ばして立ちあがった。

階下の明るさにくらべて、段梯子のうえは、暗闇にちかかった。彼は手さぐりに、のぼって行った。最後の段をのぼりきると、目の前には異様な光景が浮びあがったのだった。

十畳敷ほどの間が二つ、障子があいていた。薄ぼんやりと明りがついている。小さいネオン燈が、シェードのうちに、桃色の微かな光線をだしていた。床の間を背に、こっちを向いて坐っているのは、婦人だった。暗くてよくは判らないが若くはない。その隣には、懐中電燈の載った小机を前にして頭の禿げあがった老人がいた。もう二人、背広姿の若い男がいて、これは婦人の前に畏っていた。

「では大竹さん」と老人は、隣の夫人に呼びかけた。

「序に、も一つやってあげて下さい」

大竹さんと呼ばれた婦人は、無言で肯いた。