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せいこのしじん
西湖の屍人
海野 十三
「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页
「それで君は?」
帆村はそれに答えず、煙草に火をつけると、パッパッとうまそうに吸った。
「君はカフェ・ドラゴンの女給がだいぶん、気に入ったようだったネ」帆村は、人の悪そうな笑をうかべて、私を揶揄った。
「ああ、マリ子のことかい」私は、しらばっくれて、云ってやった。「あの子は、この事件に無関係だと思うがネ」
「マリ子のことは、そっとして置いて」と帆村は急に顔面をこわばらせて云った。「あの古煉瓦建のカフェ・ドラゴンだが今朝起きぬけに、あの濠向うの仁寿ビルの屋上へ、測量器械を立てて、望遠鏡で測ってきた」
「ほほう」私は彼の手廻しのよいのに駭かされた。
「だが遺憾ながら、昨夜目測した室の面積に、煉瓦壁の厚さを加えただけの数値しか、出てこなかった。つまり、隠し部屋があるだろうと思ったが、間違いだった」
私は感歎のあまり、黙って頷いた。
「その代り、すばらしい拾いものをした」
「む、なにを拾ったネ」
「カフェ・ドラゴンと、泥船が沢山舫っているお濠との間に、脊の高い日本風の家がある。ところがこの家の二階の屋根にすこし膨れたところがある。鳥渡見たくらいでは別に気がつかないほどの膨らみだ。