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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

帆村が蹣跚めくのを追って、私が右にヨタヨタと寄ると、帆村は意地わるくそれと逆の左の方にヨロヨロと傾いてゆくのだった。銀座裏は時刻だから、いたずらに広々としたアスファルトの路面がのび、両側の家はヒッソリと寝しずまり、さまざまの形をした外燈が、半分夢を見ながら足許を照らしていた。

酔っ払いにとって、四ツ角は至極懐しいものである。三間先のコンクリート壁体を舐めるようにして歩いていた帆村は、四ツ角を見付けると嬉しそうに両手をあげ、まるでゴールのテープを截るような恰好をして、蹣跚けていった。そのとき私は後からそれを眺めていて、急にハッとしたのだった。

――その四ツ角へ、別の横丁から、おかしな奴がノコノコやってくる!

その姿は、本当には薩張り見えないのだ。それにも拘らず、見えない横丁に歩いている人間の姿が見えたような気がした。いや、矢張りハッキリと見えたのだ。それは不思議なようで、別に不思議はないことだ。私達のように永年都会に棲んで、極度に神経を敏感以上、病的に削られている者は、別に特殊な修練を経ないでも、いつの間にか、ちょっとした透視ぐらいは出来るようになっているのだった。