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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

トランシットでビルディングの上から仔細に観察してみると、その膨れた屋根は隣のカフェの煉瓦壁のところで止っている。僕の眼は、煉瓦壁の上をスルスル匍ってカフェ・ドラゴンの屋根に登っていった。すると其処に、大きな煉瓦積の煙突があるのだ。ところがこの煙突の根元へ焦点を合わせてみて判ったことだが、灰色のモルタルの色で、この煙突だけは、つい最近出来たものだということが判った。これは面白いことだ。あの二階家を建てたためにあの煙突ができたと考えることはどうだろう。その次には、二階家につける筈の煙突を、どうしてとなりにつけたのかと考えてはどうであろうか。さらにもう一つ、日本建の二階家になぜ煙突が入用なのであるかと考えては、いけないであろうか」

帆村は陶酔的口調で私に聴かせているのではなく、彼自身の心に聞かせているのであることが明らかだった。

「すると、そのあたりに、怪青年が隠れているというんだね」

「うん、一度入った者は、いつかは出てこなければならない。そうだろう。あとは根気競べだ」

3

青年漢于仁は、今日も窓のそばに、椅子をよせて、遙かに光る西湖の風景を眺めていた。